「継続は力なり」というより「継続の力なり」(週末コラムの最終回です)

こんにちは。大宮です。
親しい人と会食するときでも、最初の15分間ぐらいはなんだかぎこちない空気が流れたりしますよね。あの時間はちょっと気まずいものですけど、いきなり「本題」に入ったり無理にはしゃいだりするのは好きではありません。
どんなに親しい相手でも他人は他人ですし、自分自身が「いまどんな調子で何を考えているのか」もよくわからないときもあります。相撲の「立ち合い」のように、お互いの呼吸を合わせて気持ちよくぶつかれるように準備する時間が会話には必要なのだと思います。

最近、どんな記事を書くにも冒頭はこんな感じでモジモジするようになりました。いきなり本題から入ると、変な力みが出て自分の中の黒い部分(妬みや憎しみ、優越感など)がドバっと出てしまったりするからです。
こうやってとりとめもないことを書いていると、いまこの文章を読んでくれている人と時間を超えて(この文章をブログにアップしてから読まれるまでには時間差がありますよね)対話していることを思い出し、気持ちが落ち着いてくるのです。そして、読み手が楽しく受け取れる範囲で素直になろうと思い直します。たとえ本音であっても愚痴や自慢ばかりの会話は面白くありませんからね。

さて、本題です。
2006年3月からスタートした本ブログですが、ちょうど10年が経つ今月で更新を終了することにしました。今後は、メールマガジン(紹介と登録方法はこちら)とホームページ(今月中に開設予定です)に移行します。

10年前、僕は29歳でした(いま39歳なので当たり前ですね)。あっという間だったな、という感覚はあまりなくて、それなりに長くていろんなことがあったなあと感じています。

30代前半ではライターという仕事の方向性に思い悩む日々が長く続きました。焦燥感と退屈ばかりの時間、苦しかったなあ。僕にとっては必要な悩みだったと思うからこそ、この10年間をもう一度過ごしたいと思いません。というか、もし人生をやり直すならば、ディーン・フジオカみたいなイケメンにゼロ歳児から生まれ変わりたいです。

このブログ記事をすべて読み返す気にはなれませんが、「10年間もほとんど毎日更新を続けてきた」というのは我ながらすごいことだと思います。ちなみに、最初の投稿はこちらです。そこには、本ブログの効用について、こんな一文があります。

<(ブログ更新を)一年間ぐらい続ければ、自炊の頻度が増加するとか、イケてるレストランに行くようになるとか、結婚してしまうとか、何かしら前向きな効果があるかもしれません。>

10年後のいま、一人のときは納豆キムチ目玉焼き丼や豚汁を作って食べるようになったし、有名ではなくても温かみのある飲食店をいくつか覚えて通っているし、一度失敗したけれど二度目の結婚生活は今のところ楽しく送っています。
ただし、これらはブログを続けてきたおかげではありません。年齢を重ねる過程で、お店や人との良き出会いに恵まれた結果です。

継続は力なり、とは言いますが、継続して意味のあるものと特に意味がないものがあり、このブログは明らかに後者です。

作家の中村うさぎ氏がどこかでこんなことを書いていたのを思い出します。人が生まれることには意味はない。愛のないセックスの産物に過ぎないこともある。でも、どんな人にでも生きる価値はある、と。

僕の場合は、意味のないことでも楽しみを覚えればコツコツと続けていく力が僕にはある、という自己発見にはなりました。小さな子どもがどこにでもある瓶の王冠を集めるようなものですね。何の意味もない。でも、楽しい。継続の力はある、という事実だけが残ります。
自分主催の自分ファンクラブ飲み会「スナック大宮」は来週末で第50回を迎えますからね。2011年の秋以来、ほぼ毎月開催しているのです。かなりの継続力と言っていいのではないでしょうか。

楽しくマイペースにできることならば継続する力がある、という事実と自己発見。
そのまま放置して忘れ去ってもいいのですが、僕はまだ現役世代なのであえて意味を見出すことにしました。

包丁(ボールペン)1本で稼ぐという意味では、料理人とフリーライターは似ています。大きなお店で腕を振るうことは、名のある出版社の媒体で仕事をさせてもらうことと同じようなものですね。お店の看板でたくさんの良質なお客を集められて、恵まれた厨房設備や食材、人材も活用できます。
ただし、あくまで他人のお店なので好き勝手に働くことは許されません。お店独自の「お約束」を守ることが求められます。

一方で、家族で経営しているような飲食店もありますよね。店主はすべてが思いのままです。その代わり、お客さんが来なくても誰かのせいにすることはできません。僕はどちらかと言えばこのような家族経営のお店が好きなのですが、働くほうは大変そうだなと思ってきました。

でも、この文章を書きながら気づきました。彼らは「マイペースにできることならば継続する力」があるのですね。ホテルのレストランなどの大きなお店で働くよりも、自分の小さなお店を切り盛りすることが性に合っているのでしょう。

僕の場合は、出版社との付き合いをやめようとは思いません。力のある会社やプロの人たちと一緒に働くことは面白いし、勉強になるからです。
でも、マイペースな継続力も仕事に生かしたい。小さくてもいいから「自分のお店」を持ちたいと思うのです。編集プロダクション勤務の頃から数えると、「大きなレストラン」である出版社との仕事を15年間も続けて来たので、そろそろ自分の店を開いてもいいですよね。
まめな性格の僕ならば、飽きずに毎日店先を掃除して、おいしそうな食材を仕入れて、料理の仕込みをして、一人ひとりのお客さんを精一杯に迎えることができる気がします。最低でも10年は細々と続けられるでしょう。

というわけで、無料メルマガとホームページを始めることにしました。前者が店内と料理で、後者が看板と店構えのつもりです。常連客(メルマガ読者)が1000人ぐらいに達したら、独自の企画と取材で原稿を書いて有料メルマガも始めたいと思っています。

本ブログがなかったら思いつくことすらできませんでした。
10年間更新を続けてきたことの「価値」は、一つひとつの記事とそれを書いていた時間にあります。意味はなくても、僕にとってはかけがえのない思い出です。
ただし、本ブログの唯一の「意味」は、メルマガとホームページというお店を始められたことにあると思っています。
by jikkenkun2006 | 2016-03-19 22:33 | 週末コラム


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