他人まかせのキャリア

 こんばんは。大宮です。
 今年の冬は例年より寒い気がします。僕は冬生まれなので「冬洋」と名付けられました。冬の太平洋をザブザブ泳ぐ力強い男に育ってほしかったのでしょうか。30年後、冬服は好きだけど冷え性&寒がりな軟弱マンになりました。海で泳ぐのも怖い。ちなみに、暑いのも苦手です。お父さんお母さん、ごめんなさい。
 
 自分自身が軟弱なので、映画や小説などは強くてカッコイイ男たちが主人公の作品を好みます。その一つが黒澤明監督の『七人の侍』。戦国時代、野武士に襲われる村を七人の浪人たちが助けるという内容です。「理想の組織」を描いた映画としてはスティーヴ・マックイーン主演の『大脱走』に並ぶ名作とされているそうですね。

 確かに、寄せ集めの七人と村人たちがしだいに結びついていく描写は秀逸です。例えば、米の飯だけを対価に野武士撃退の仕事を引き受けた老武士が、「少なくともあと六人は腕の立つ侍が必要だ」と言って仲間探しをするシーン。町中で偶然に再会した昔の部下は、食べるために商人として暮らしています。和やかに昔話をしながら問いかける老武士。

「もう合戦は嫌か?」

 部下は軽く笑って受け流します。恐らく今の生活も充実しているからでしょう。老武士はさらに問います。

「実はな、金にも出世にもならん難しい戦があるんだが、付いて来るか?」

 無茶苦茶ネガティブな転職の誘い文句ですよね。付いて行くわけないだろう。しかし、ニヤニヤしていた元部下は急に真顔になり、迷いなく

「はい」

と即答するのです。英訳するとSure!ですよ。軽いなあ。命がけの仕事なのに、そんなに簡単に決めていいの? いまの仕事はどうするの? せめて戦の概要を聞いてから考えたら? 
 いや、この二人にはそんな必要はないのだ。この短いセリフのやりとりだけで、老武士と部下の深い信頼関係を表現しているんですね。さすが世界のクロサワ。

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 終身雇用制度が崩壊しつつある今、自分のキャリアを会社まかせにできる人は少なくなっています。景気回復で雇用状況は改善しているようですが、正社員自体が全就業者の約半数しかいません。「定年まで勤め上げてほしい中核人材」などと見なされるのは全従業員の1割ぐらいでしょう。

 残り9割の仕事人が「面白い仕事がしたい」「出世したい」「安定的に収入を得たい」といった目的を果たすためには、どんな働き方をして何を身につけていくべきなのか。そんなことは自分で考えろ、ということなんですね。厳しいなあ。身分が固定されていなかった戦国時代の状況にちょっと似ているかもしれません。

 個人事業主の僕も「企業の中核人材」とは対極の働き方をしています。誰からのどんな仕事をいくらで引き受けるのか、毎回自分で決めなくてはいけません。サムライではないので失敗しても死にはしませんが、ヘマをし続けるとたぶん3ヶ月で仕事が来なくなるでしょう。ライターができなかったら何をして食べていけばいいのかな……。改めて怖いです。

 というわけで、自分なりに生き残り策(キャリアプラン)を必死で考えるわけです。一番大事なのは、一緒に仕事をするヒト、僕の場合は編集者を選ぶことでしょう。もちろん僕も編集者から選ばれたり捨てられたりしています。お互いに「気が合って仕事人として尊敬できる」と感じていることが、いい仕事をするための絶対条件です。気が合わないとイライラして良くないし、あまりにも仕事ができないのも困ります。
 僕は今、30人ほどの編集者と継続して付き合いがあります。ライターになってから100人以上の編集者と出会ってきたはずですが、お互いに取捨選択して残ったのが今の30人です。仕事上では何よりも大切な「財産」だと思っています。

 次に大事なのはモノ、つまり仕事内容です。プロフェッショナルとしてのキャリアを築いていくには、少しずつでも仕事を選ぶ必要がありますよね。自分の「売り」となる分野や切り口を作らないと、読者や編集者にアピールすることはできません。僕は未だに定まっていないのですが、「個人の生き方と人間関係をテーマにしたエンタテインメント」を追求したいとぼんやりと考えています。目指せ、リリー・フランキー&池波正太郎!

 もちろんカネもほしいです。尊敬できる人と一緒にやりがいのある仕事に取り組むのは幸せですが、ギャラがあまりに安いと及び腰になります。僕は今でも毎週のように預金通帳とにらめっこして、「もし仕事がパッタリ来なくなったらあと何ヶ月生活できるんだろう」とモジモジ考え込んでしまいます。チャップリンも言うように、「少しばかりのお金」は必要ですよね。

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 以上の「ヒト・モノ・カネ」を念頭に置きながら、自分の意思と責任でキャリアの階段を昇っているつもりです。目の前の階段を一段一段自分で手作りし、ドキドキしながら踏みしめて昇る感じ。どうか、階段が崩れませんように……。

 しかし! こんなに慎重に生きているのに、ときどき言い知れぬ不安が襲ってきます。「俺の階段、そもそも昇り先が間違っていたらどうしよう。構造計算書が偽装されていたらどうしよう」といった根本的な疑問です。怖すぎるよ。怖すぎて、今さらライター養成学校や社会人大学院に通おうかと思ったこともありました。
 
 そんなにときに、キャリア論の本でいい言葉に出会いました。「タニマチ」(ビジネス用語では「メンター」)です。相撲の世界でよく使われる言葉で、駆け出しのスポーツ選手や芸術家を支援する篤志家を指します。効能を引用しますね。

<「タニマチ」とはその世界に直接関係する人たちではなく、その世界を側面から支える人たちのことであり、目利きの要素も持っています。プロをめざして修行中の自分を、「こいつは将来ものになる」と目をかけてくれて、物心両面で応援してくれる人たちということです。>
(大久保幸夫『ビジネス・プロフェッショナル』ビジネス社)

 タニマチは修行中の苦しい期間を支え、外の世界との架け橋にもなってくれるそうです。キャリアの一部分を作ってくれるということですね。タニマチ、ほしい!

 先輩ライターにも尊敬している人はいますが、同じライター業なのでタニマチというより「師匠」という感覚です。やっぱり編集者がタニマチになりやすいと思います。物心両面で応援してくれますからね。僕たちフリーランスにとっては、「駆け出しの頃から知り合いで、将来のことも考えて仕事を作ってくれている(と思われる)人」がタニマチなのでしょう。
 
 そう考えると、誰にでも数人のタニマチがいるはずですね。あ、僕にも3人のタニマチがいました。プレジデント社の江部氏、日経BP社の治部氏、NHK出版の米村氏。ほとんど実績がない僕を、それぞれの分野で「大抜擢」し続けてくれる奇特な人々です。リスキーだよなあ。感謝してます。

 自分でキャリアを作る姿勢は大切ですが、根本的な間違いをしたり小さくまとまってしまったりする危険が伴います。せめてタニマチからの仕事は、内容やギャラやスケジュールすらも考えずに引き受けようと思っています。

「大宮君、ギャラも安いし名前も出ない難しい仕事があるんだけど、一緒にやる?」
「はい」

ぐらい即答で。そうすることで、自分では見えなかった見ようともしなかった新しい世界が拓けてくると信じています。

 キャリアの7割は自分で考えます。でも、3割ぐらいはタニマチにお願いしたいです。他人まかせのキャリア部分があっていいと僕は思います。
by jikkenkun2006 | 2007-01-18 03:30 | 週末コラム | Trackback | Comments(5)
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Commented by まるちょん at 2007-01-19 10:55 x
「タニマチ」の3人の方との信頼関係、素敵ですね。良い関係から、実りある仕事が生まれるわけですね。
さらなるご活躍をお祈りしています!
頑張れー(^_^)v
Commented by 実験くん2号 at 2007-01-19 15:12 x
何にってるんだ大宮冬洋! みんなキミのタニマチだ! 
Commented by jikkenkun2006 at 2007-01-20 01:04
>まるちょんさん
励ましの言葉、ありがとうございます!

>2号さん
え、そうだったんですか……(涙)。うれしいです。期待に沿えるようがんばります。最近、仕事が楽しいです。
Commented by Y at 2007-01-22 20:10 x
一度タニマチが集って、「大宮冬洋を語る夜」を開催してみたいです。
今回も、無理難題な仕事をお願いして、
申し訳ないです&期待してます^^
Commented by jikkenkun2006 at 2007-01-23 00:12
>Yさん
ありがとうございます。一度、僕がお世話になっている編集の人に集まってもらうのは面白そうですね。結婚式は当分ないので、単著を出した際にでも企画しようかな…。


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