近所で「こんにちは」を交わせる喜び

こんばんは。大宮です。
東京・杉並区にある西荻という街で一人暮らしを始めて、4年半が経過しました。
引っ越してきた当初、友人の一人が近所にたまたま住んでいただけで、「寂しいなあ」と感じていたのです。その友人も忙しい会社員なので、ときどきしか会えないし……。

僕はフリーで働いているので、会社というコミュニティがありません。肉親や友人、仕事仲間の8割ぐらいは東京近郊に住んでいるものの、住んでいるのはあくまで西荻という小さな街。近所に知り合いがもっとほしいな、という思いが日増しに強くなりました。

で、古本屋で見つけた『西荻丼』というタウンペーパー作りのサークル宛にファンメールを送ってみました。できれば何か手伝いたい、と。
数日後に返事をもらい、活動に参加しました。といっても、3ヶ月に一度集まって、それぞれが好きな記事を書くだけ。あとはネット上で意見交換をする程度のつながりです。

それだけのつながりでも、胸の奥に小さな灯りがついたような安心感を覚えました。
半年後、『西荻丼』仲間の事務所をライター業の仕事場として間借りさせてもらうことになり、さらに半年後には『西荻丼』の編集長になっていました。

以来、3年。
『西荻丼』に広告をくれているお店の人たちも含めると、30人ぐらいは街に知人ができました。
街中をプラプラ歩いていると、誰かしらに出くわします。
「こんにちは」
「あ、こんにちはー」
「暖かくなってきましたね」
「そうですね。もうコートは要りませんよ」
「じゃまた」
という内容ゼロの会話を交わして別れるだけですが、言葉を発するだけでなんとなく元気になるから不思議です。

『西荻丼』の仲間とは、お菓子をもらったり食事に招いてもらったり(一方的に恵んでもらってばかりですが)と、もう少しだけ深い付き合いをしています。ただし、夜通し人生を語り合ったりするような「友人」ではなく、あくまでも活動を共にする「仲間」という関係性です。

6年前、会社を辞めてフリーになった頃は、「俺にはコミュニティなんていらない。一人でたくましく生きていくんだ!」と気負っていたものです。
ところが今は、挨拶や食べ物を交換できるゆるやかな地域コミュニティがとても心地良い。歳をとった証拠なのかもしれませんが。
もし重病で部屋から出られなくなったときは、他の街に住んでいる親兄弟や恋人よりも、まずは地元の知人に頼ると思います。遠くの親戚より近くの他人、です。

埼玉県に接する東村山市にある実家では、母親が同じように地域コミュニティに参加しています。僕たち兄弟の保護者つながり、パート仲間、単なるお隣さんやお向かいさん、などなど。食卓には、必ずといっていいほどもらいものの食材(松井さんの家庭菜園で採れた小松菜とか増澤さんの実家から届いた里芋とか)が並んでいます。
実家に住んでいた頃は、「確かに新鮮で美味しいけれど、お母さんは面倒くさくならないのかな。何かもらったらお返しをしなくちゃいけないだろうし」と思っていました。

しかし、最近になってようやく母親の気持ちがわかってきました。
物をあげたりもらったりする物々交換そのものにはあまり意味がないのだと。
目的はむしろ、コミュニティを維持することなのです。

声をかけたり物をあげたりする行為は、「私はあなたのことを気にかけています。いつまでもここにいてください」という承認メッセージであり、恩を売ったり豊かさを自慢したりする意図ではありません。
だから、物をもらったほうはすぐにお返しをする必要はなく、「ありがとうございます」と笑顔を返せばいいのです。何か(たいてい食べ物)がたくさん余ったときに、「よかったらどうぞ」と持って行けば十分で、しかもそれは「お返し」ではなくて新たな承認メッセージを発しているのだと思います。

もちろん、母たちがこんなことを考えながら物々交換をしているわけではありません。単に「楽しいから。ついでにおしゃべりできるから」という理由でしょう。
でも、なぜ楽しいのかと突き詰めれば、お互いの存在を承認し合えるコミュニティを維持できたという安心感に行き着くはずです。
そう考えると、「言葉や物をあげてもらってもらう」という行為と「言葉や物をもらってお礼を言う」という行為は等価であることがわかります。僕みたいに「もらってばかり」でもいいんだな……。

僕は、相互に監視して「出る杭は打たれる」ような組織や地域社会は望みません。
しかし、一人きりで生きていけるほど僕たち人間の心身は強くできていないとも思います。それは、仕事上の付き合いだけを大事にしてきたオジサンたちが退職後に生気を失ってしまう様子を見ても明らかです。

「できるだけ自分のことは自分でやる」という心構えさえあれば、積極的に地域コミュニティを築くことは日常生活を安心感(近所に知り合いが何人もいる)があってかつ刺激的(面白い人や物と出会える)なものにしてくれます。
そのきっかけは近くの店に置いてあるチラシやインターネット上などにけっこう転がっていることを、僕は『西荻丼』に教えてもらいました。
by jikkenkun2006 | 2008-03-23 00:45 | 週末コラム | Trackback | Comments(2)
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Commented by のりすヶ at 2008-04-03 14:18 x
遅ればせながらのコメント失礼します。
読んでいて心が軽くなりました。
というのも、ご近所から野菜とかぬか漬けとか頂き物をすることが多く、
なんだか貰ってばかりで心苦しいなぁ、と思っていたからです。
でも、そんなに構えなくってもいいんですね。

結婚して板橋区に越してきて、地域コミュニティが温かいことに
驚いています。私もまわりに安心感を与えていきたいです。
Commented by jikkenkun2006 at 2008-04-03 22:48
>のりすヶさん
コメントありがとうございます。確かに板橋区は温かそうな街が多いですよね。僕の地元(東村山)もなんとかしたいです。


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