オレ、僕、私……。男の一人称について

こんにちは。大宮です。
物心ついたときから僕は、「オレ」を主語にして話してきました。父親と兄の影響で「オ」にアクセントがつく不思議な「オレ」だったのですが、兄だったか僕だったが小学校高学年のときに周囲の影響を受けて「オ」は低く抑えて発音する一般的な「オレ」に変わりました。男三人兄弟という小さくて同質性が高い社会では大事件で、わずか1週間ぐらいで3人とも「オレ」の発音が変わった記憶があります。

一貫して「私」を主語にしている女性に比べると、僕たち男性は年齢や状況、相手によって一人称を変えていくものですよね。僕が初めてそのことを強く認識したのは中学校に入ってから。暴力的かつ優しいヤクザみたいな体育教師の前で「オレ」を使ったら、「お前は俺の前でオレと言うのか。ふーん」と白い目で恫喝されました。あなたは「オレ」なのにオレは「オレ」じゃだめなの? 甘やかされて育った僕には上下関係や処世術がわかっていなかったのですね。

あれから20年以上経つ今でも僕は主語に迷うことがあります。口語では「僕」「私」「オレ」の選択肢があるし、書き言葉では「僕」「筆者」「私」などから選ばなければなりません。

書き言葉のほうから現状を振り返ってみると、「私」を使うケースは見知らぬ人に取材依頼のメールを送るときぐらいです。「はじめまして。私はフリーでライターをしている大宮と申します。このたびは……」ですね。見知っている相手には、年上の仕事仲間(編集者など)に対しても「僕」を使っています。大丈夫、ですよね?

4年ぐらい前から原稿で多用しているのは「筆者」。僕は主語のない文章があまり好きではないのですが、そうかといって「私」や「僕」を使うと頭の中の読者から「お前は誰だよ。お前なんか知らないよ。出しゃばるんじゃない」と突っ込みが入るのです。僕はインタビュー原稿であっても自分の感想や意見を書き加えたくなるタイプなので、せめて主語は大人しくて色のないものを選んでいるのだと思います。

でも、連載などでは「僕」を使うこともあります。(このブログも一貫して「僕」ですね)。読者はおそらく僕をある程度知っていて興味も少しはあるので「僕」で許されるだろう、「お前は僕の前で僕と言うのか」などとは叱られないだろう、と思っているのですね。「筆者」のときよりも読者に親近感を持ちながら書いていると言えます。それが良い方向に働くと飾り気がなく素直な文章になりますし、悪い方向に働くとひがみや恨みの感情が露骨に出て炎上したりします。「筆者」のほうが自分を抑制しやすいので無難かもしれません。

口語に関してはある思い出があります。30歳ぐらいのときに付き合っていた年上の女性から「私はSMAPで例えるならキムタクよりクサナギくんが好き。キムタクは『俺』だけどクサナギくんは『僕』だから。後者のほうが知的で誠実で優しい大人に感じる。実際、現実の男性を観察してもその傾向はあると思う」と言われたのです。
その女性の前で僕は「オレ」を使っていました。彼女のために一人称を変えるほどは恋していなかったのでしょう。1年ほど経ってから別れることになりました。

それでも最近は、「オレより僕のほうが得をするかも」と気づきつつあります。
親兄弟や親しい旧友の前では10代の気分に戻って「オレ」を使っているのですが、主語が「オレ」だと立ち振る舞いや話す内容まで少し乱暴になってしまう傾向がありますね。もちろん、タメ口です。それで許し合えていればいいのですが、相手によっては不快に感じているかもしれません。

それに比べると「僕」は格段に丁寧ですよね。顔の表情まで穏やかになるのがわかります。年上や見知らぬ人と話すときは丁寧語とセットにすればいいし、友だちが相手の場合はタメ口と組み合わせることで適度な距離感を保てます。
特に、大人になってから親しくなった年下の人たちと話すときは、「オレ」だと圧迫感や粗雑な印象を与えやすいですよね。「僕」に切り替えることで付き合いの幅が広がっていく気がします。

あと10年ぐらい経ったら、「昔の私は世間の皆様に甘えて『僕』を使っておりました。汗顔の至りです」などと言っているのかな……。
by jikkenkun2006 | 2015-05-23 11:56 | 週末コラム


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